アリストテレスがGMを経営したら(書評)

以下は、下記書籍の書評であり、『情操と文化』(2003年10月)に掲載されたものだが、あえてここに再録したい。

[書 評]
トム・モリス(沢崎冬日訳)『アリストテレスがGMを経営したら―新しいビジネス・マインドの探求』(ダイヤモンド社,1998). (原著:Tom Morris. If Aristotle Ran General Motors: The New Soul of Business. New York: Henry Holt & Company, 1997).
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 我が国のビジネスの世界における緊急の課題は、企業倫理と危機管理の確立にあるように思われている。著名企業による不正は相次ぎ、巨大工場における事故も繰り返されている。そして、それらの企業の有する歴史と社会的・経済的評価にもかかわらず、企業倫理は期待に反して確立されておらず、事故を想定した対策は立てられていないことが露呈している。
 例えば、我が国の当面のエネルギー政策の上からは欠かすことのできない原子力発電所をめぐる損傷隠しの事件は、世界で最も尊敬される企業といわれるゼネラル・エレクトリック社と我が国最大の電力会社の間で発生している。
 米国のビジネス・スクール(経営大学院)におけるMBA(経営管理学修士号)をめぐる神話が崩壊して久しいが、その後に強調されたのが「Business Ethics(企業倫理)」の科目である。この科目はいまやハーバード・ビジネス・スクールをはじめとするビジネス・スクールにとっては不可欠の科目とさえなっている。我が国においてもようやく研究者や研究書が出現しつつあるが、その他の研究分野からすれば未だ微々たるものである。
 本書は、企業倫理をめぐる著作であるが、学術書ではなく、ビジネスマンはもとより、一般読者を対象とした読みやすい書物であり、米国では好評を博した著作である。
 倫理学を最初に体系立てたアリストテレスは、倫理学の応用分野である臨床心理における職業倫理や、ロースクールの職業倫理の科目でも最初に言及される、いわば倫理の出発点である。本書は、そのアリストテレスが、米国企業の典型ともいうべきゼネラル・モータースを経営したとするなら、すなわち、現代の最先端の企業の経営者となったなら、その思想と行動はどのようであるか、を述べたものである。それは、企業経営の方法を述べたものではなく、企業経営の哲学を、しかも、原アリストテレスともいうべきものを現代に持ち出して論じているのだ。すなわち、アリストテレスの基本原理である、「真(Truth)」「美(Beauty)」「善(Goodness)」「統一(Unity)」を現代のビジネスに適用してみせる。アレキサンダー大王の家庭教師を現代に蘇らせたにもかかわらず、不思議なリアリティをもっているのが本書である。もっとも21世紀に迎えている危機からするなら、やや楽観的に過ぎるのではないかという感を否めないことも事実である。
 著者のトム・モリスは、もともとノースカロライナ大学で経営学を学び、不動産取引業者のライセンスを取得している。しかし、後、イェール大学で宗教学と哲学を専攻して博士号を取得しており、その点では、まさにこの問題を的確に扱う能力と資格を有しているということができる。
<写真1>トム・モリスの邦訳書
<写真2>同英文原著

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